今「ピコ太郎のつくりかた」という本が、しずかなブームを巻き起こしていることをご存知だろうか。
「どうせ、フザけた本なんだろ?」と思うかもしれない。
だが、ちょっと待ってほしい。
この本は、著者である古坂大魔王氏の失敗、挫折、葛藤、そしてそこから得た学びのエッセンスが凝縮さている極めて真面目な本なのだ。
この本を読むことで、ヒットを生み出すためのマーケティング的な思考法についても、同時に実戦形式で学ぶことができる。
この本は、決してフザけた本ではない。
古坂大魔王氏の熱気が、文字を通して直接伝わってくるかなような熱い本である。
目次
著者プロフィール
著者の古坂大魔王氏は、1973年生まれのお笑い芸人。
「底ぬけAIR-LINE」として、当時の人気番組だった「ボキャブラ天国」などにも出演していた。
現在は、バラエティ番組などにも出演し、コメンテーターとしても活躍している。
「ピコ太郎のつくりかた」解説
新しい場所へ出て行け
新しい場所に出ることこそ、一番のチャンスだ。
本書の中でも、著者がこれまでにとってきた様々な行動が書かれていて、それがあとあと結果に結びついていく。
実際にピコ太郎も 、YouTube という当時としては新しい環境に飛び込んだことがきっかけで、チャンスを得ることができた。
自分は、どこでなら勝てるか見極めろ
お笑いでもフリートークでも勝てないなら、音楽をやってみる。天才じゃない限り、スキマで生きるしかない。君も自分はどこで一番輝けるか考えてみよう。
これなんかは、まさにマーケティングの考え方である。
マーケティングの考え方というのは、突き詰めれば、以下の二つの問いに集約することができる 。
- 現在、どこの市場が美味しいのか?
- 自分が、その市場で勝つことはできるのか?
マーケティングとは極端な話、この二つの事をいっているに過ぎない。
著者がいっているのも同じことである。
「どこの市場が美味しいのか?」という問いに対する答えは、この本のあとの方で出てくるのだが『新しいテクノロジーによって生み出された市場( YouTube など)』である。
「自分が、その市場で勝つことができるのか?」という問いに対する答えは『勝てる市場を探すか、なければ自分で作り出せ』だ。
著者は、お笑いでもフリートークでも勝てないから、お笑いと音楽を組み合わせて、自分が勝てる新しい市場を作り出している。
自己評価より他者評価
多くの人に伝わるものは、ほぼ例外なく一人の作り手がとことんまで自分の得意なことを活かして、こだわって作り出す 。ここが「0~1」だ。でも、その後の「2~」には、他者評価が加わる。自分がどんなにいいと思っても、周りが思わらなければ広まらない。(中略)入り口はスッと入って、入ってから思いっきり暴れた方がいい。だから他人の評価を見ながら、自分はこれが得意というのを混ぜ合わせたバランスでものを作ることが大切だ。何よりもバランスが重要だ。
十八歳の時、著者はお笑い芸人になることを志して、青森から東京へ出てくる。
認めたくないものだな、自分自身の若さゆえのあやまちというものを・・・
著者は、中学2年の時「スター生たまご・邦子の今ドキ芸能界」という番組で優勝する。
その輝かしい実績を引っさげて、意気揚々と上京したのだが、周りの同期芸人と比較してみると、自分の実力では全く歯が立たないという到底認めることができない事態に直面してしまう。
「自分はこういうスタイルでやりたい」というモノを、前面に押し出していた著者だったが、ここは一度冷静になり、他人の意見に耳を傾けてみることにした。
著者がいいたいことは、「いいモノというのは、作り手が徹底的にこだわって作るものですが、他人が認めてくれなければ、世の中には広まりませんよ。
ならば、最初は他人の意見を取り入れて、認められるモノを作ってから、ある程度の評価を得たのちに、自分のこだわりをブレンドしていったらどうですか」ということである。
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転校生のままでは笑いはとれない
みんなにウケたければ、まずはみんなに知られること。(中略)単純だけれど、ある程度有名な方がウケる。笑いは、その技術よりも周囲の空気が生み出すものだったりする。(中略)つまり、ウケるためにはみんなに知られていないといけない。(中略)知られるということ。その方法を考えることが大切だ。転校生の立場じゃ、誰も笑ってくれない。
いくらこだわり抜いたネタを作っても、その人の知名度が低ければ、お笑いが生まれる可能性は低い。
まずは、みんなに自分のことを知ってもらうこと。
その方法を考えることが大切だということである。
今は YouTube を使えば、見ず知らずの人に自分のことを知ってもらうことができる。
「くだらない」にこそ価値がある
くだらないもの、たとえば「子犬がコロンとこける」「校長先生がつまずいて転ぶ」というのは、お笑いとして技術が低い。だけど、みんな笑う。つまり、 「PPAP」 は意味がなかったからこそ、ウケたのかなって気がする。
ピコ太郎が世界的にバズった理由の一つが、これではないだろうか。
子供は、くだらない笑いが大好きだ。
そして 、YouTube でバズった人たちを見てみると、くだらない笑いで子供にウケているという共通点がある。
ピコ太郎しかり、 HIKAKIN しかり、 COWCOW の「あたりまえ体操」しかり。
子供は、くだらない笑いが大好きだから、何度も繰り返し動画を見る。
その結果、再生数も上がる。
子供が見ている動画というのは、当然、親同士の会話の話題にもなるだろう。
ここら辺の流れが、ピコ太郎がバズった理由の一つになっているのは間違いない。
「なんで」VS「どうせ」
「PPAP」がブレイクしたことについて、「どうせジャスティン・ビーバーのおかげでしょ」と一蹴する人がいる。(中略)「どうすれば売れるのか」「自分は次に何をやればいいのか」と今すぐ研究開発を始めなければいけないのに、「オレはオレ。いつか必ず売れる」と思考停止してしまう。(中略)「どうせ」という人には成長はない。「なんで」という目で世界を見よう。
どうせジャスティン・ビーバーのおかげでしょ。
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
正直に告白すると、私もそう思っていた!
しかし、本書でときおり出てくる、著者の『音』へのこだわりを読んでいると、音のスペシャリストであるジャスティン・ビーバーが 「PPAP」 の動画を取り上げてくれたのも分かる気がする。
「PPAP」の動画は、徹底的に音にこだわって作られているそうだ。
実際に、動画を投稿した直後は「音楽業界からワサッと反応があった」と本書の中で書かれている。
このような、その道のプロにしかわからないようなこだわりは、今がネット全盛の時代だからこそ伝わったといえる。
著者も本書の中で、以下のように語っている。
「ここまでのこだわりはきっと伝わらないな」と思っても、誰かが見つけてくれる。だから、とことんまで自分が良いと思うものを追求しよう。インターネットによって世界の片隅のこだわりは、世界の中心に一瞬で届くようになったのだ。
過去の技術の蓄積はいずれつながる
トリオを組んでいた若手時代の経験も、「ボキャブラ天国」や「爆笑オンエアバトル」に挑戦した経験も、瞬発力が求められる雑学もので頭をフル回転させた経験も、全て古坂大魔王というスープのダシとなった。
お笑いだけでなくプロとして音楽に打ち込んだ経験も、古坂大魔王というスープのベースになる。
人生に無駄はない。紆余曲折を経て様々な仕事を経験し、ときには回り道をしているように見えても、そのときの苦労や工夫はあとでつながって全部活きる。努力はそのとき報われなくても、努力した自分ができあがっている。今自分がしている経験は、すべて将来に活きる「芸の肥やし」になる。くさらないで、目の前のことをひとつひとつやっていこう。
「努力は必ず報われますか?」という、よくある質問に対する答えがこれであろう。
その時その時で、精一杯努力と工夫をして取り組んでいれば、たとえその時は報われなくても、次に違うことをした時に、その時の経験が活きてくる。
そして、そのサイクルを繰り返すことで、だんだん自分の地力がついてくる。
これは、ゲームでいうなら「強くてニューゲーム」で始めるようなものだ。
このサイクルにはまれば、成功するのは時間の問題ということになる。
だから、くさらないで目の前のことをひとつひとつやっていこう。
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デジタル技術の進化がスターを作る
新しいインフラ、新しいデバイスができたときに、躊躇なくすぐさま試してみる勇気は大事だと思う。初期のユーチューバーでせっせと動画を投稿していた人も「1円の足しにもならないことをやってどうするんだ。よっぽどやることがなくて困っているのか。そもそもダサすぎるだろ」と馬鹿にされた。だが、最初にやった者が、時代の先端を行く。
本書の中でも、非常に重要な部分。
かつて、映画という技術が作り出されると、映画スターが生まれた。
テレビが作り出されると、テレビスターが生まれた。
そして現在 、YouTube というプラットフォームが作り出されると、ユーチューバーというスターが生まれている。
大切なのは、新しいインフラ、新しいデバイスができた時に、躊躇なくすぐさま試してみる勇気 。
そして、まだ誰もいない新しい場所にいち早く行って、自分が新しいルールを作ってしまうこと。
実際に、成功している経営者を見てみると、新しいものが好きで行動力がすごく高い人が多い。
戦国武将の織田信長なんかも、まさにこのタイプだ。
頭がいいとか戦略を練るといったことよりも、新しいことが好きで行動力があるという要素の方が、成功するためにはよっぽど大事なように感じる。
話を元に戻して、著者は次のスターの誕生を本書の中で以下のように予言している。
動画配信のビジネスモデルは刻々と変化していく。つまり次は「5G」というデジタル環境からスターが生まれるはずだ。
見よう見まねでやってみろ
1999年に ミクシィの前身が設立され、2000年代前半にすさまじい勢いで広がった。ミクシィを使って単独ライブの告知をしてみたところ、なんと200~300人もの客が集まった。急成長を続けるネットというツールを活用しない手はない。(中略)弟がネットに詳しかったため、弟やその知り合いに頼んでパソコンによる打ち込みを教わり、自前でオリジナルコンテンツを作っていったのだ。古坂大魔王とケンタの音声コントユニット「ケンタマオウ」では、ラジオコントの音声を録音したあと、影絵と合体させて動画を作った(今も ユーチューブにあるから、興味がある人はアクセスしてみてほしい)。
新しいモノや新しい環境に飛び込むといったことに対して、人間はどうしても『恐い』と思ってしまう。
でも、失敗しても死ぬわけじゃないんだから、新しいことにどんどん挑戦していった方がいい。
もちろん、最先端の新しい分野は教えてくれる人なんていないんだから、見よう見まねでかまわない。
著者が、早い段階からインターネットに親しんでいたことは、ピコ太郎のヒットに非常に大きな影響を与えた 。
そして、新しい経験をする時は 、著者がやっていたみたいに、自分の手を動かして理解を深めておくのが大事だ 。
青森県出身のプロレスラーである船木誠勝選手も「実戦は経験が全て」とシンプルに語っている。
何事も頭で考えてわかった気になっているのではなくて、実際に手足を動かして経験してみることが大事だ。
【追伸】
経験してみることが大事ということなので、私も「ケンタマオウ」の動画をネットで探して視聴してみた。
正直いって、この動画の内容はセンスが高すぎて、私にはわからなかった。
だが、それでいい!!
著者も本書の中で「本物に届けろ。本物ならわかってくれる」と繰り返し訴えているではないか。
「ケンタマオウ」の動画が、著者のいう『本物』に届くことを私も願っている。
愛を与える者が一番強い
こちらも愛すれば、愛で返してくれる。愛とは違う言葉で表現すると、尊敬であり、謙遜であり、認知かな。認め合うとそこには愛が生まれてくるんだなというふうに思った。昔から僕を知っている人は「お前はよく途中で放り出さずにやってきたよな」と口々に言う。でもそれは、周りの人たちの支えと期待があったからだ。(中略)誰かから愛情を受けたと感じたときには、相手にもキャッチボールのように愛情を投げ返さなければならない。(中略)この愛情のキャッチボールを、人は永久に続けなければならない。ヒットを作るための最大の方法は、愛を集めることだ。
この本のタイトルである「ピコ太郎のつくりかた」に対する答えが書かれている部分。
たった1%でもいい!
でも、自分自身をその1%ですら信じることができなくなってしまったとき、人は諦めてしまう。
だが、
- 「自分の才能を信じることができない」
- 「自分の努力を信じることができない」
- 「自分の未来を信じることができない」
というようなことは、真剣に人生を生きている人なら、よく経験することなのではないだろうか。
自分ですら自分を信じることができなくなってしまった時、それでも自分を信じてくれるのは周りの人達なんだと著者はいう。
おわりに
この記事では一切触れなかったが 本書の最後には、ある少女との間で起きた奇跡のストーリーがつむがれている。
人間の欲求の頂点は「自己実現の欲求」であるとエイブラハム・マズローの欲求5段階説では説かれているが、私はその奇跡のストーリーを読むことによって、人間には自己実現よりもさらに上位の欲求が存在し、そしてそれが何であるかを知ることができた。
これ以上解説するのは野暮というものだろう。
奇跡のストーリーは、ぜひあなた自身の手で味わってみてほしい。
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